そのうち、特に目立つのは、まだ年若い女が二人、並んで腰掛けている姿だった。一人は熱心なクリスチャンで、健康だった時分は小学校の教師であったという。いくらか面長な貌で鼻その他の恰好もよく、全体と調和がとれ、その輪廓から推《お》して以前はかなり美しい女であったに違いない。しかしいかんせん、すでに病勢は進み眉毛はなく、貌色が病的に白い。皮膚の裏に膿汁がたまっているような白さである。
もう一人の女は、まだ二十二、三であろうと思われる若さで、全体の線が太く、ちょっと楽天的なものを感じさせる。貌の色は前の女とほとんど同じであったが、こちらはその白さの中になんとなく肉体的な魅力を潜めている。よく肥えていて、厚味のある胸や腰は、ある種の男性を惹《ひ》きつけねば置かないものがあるが、それは、いま腐敗しようとするくだものの強烈な甘さ、そういったものを思わせる。二人とも、もうほとんど失明していた。
私は暗たんたるものを覚えながらも、ちょっとした充血くらいでこんなに不安を覚えている自分が羞《は》ずかしく思われた。みんな明日にも判らぬ盲目を前にして黙々と生きているじゃないか、死ねなかったから生きているだ
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