自分が発見したことのように思った。それは吸入器を眼にかけて洗眼と罨法を同時に行なうのである。
 Tは私よりずっと眼は悪く、片方はほとんど見えないし、良く見えるという方も、もう黒いぶつぶつが[#「ぶつぶつが」に傍点]飛び廻って見え、盲目になるのも決して遠いことではないと自覚し、覚悟しているほどである。だから眼のことになると私なんかより十倍もくわしい。だからこの男の前では私は、羞ずかしくて自分の眼のことなどいわれた義理でないのであるが、しかし、私の最も親しい友人であるし、彼もまた私を心配して、
 「俺、毎日、夕方吸入かけてるんだが、君もかけてみないか」とすすめてくれた。
 タンクの水がくらくらと煮立ち、やがてしゅっと噴き出した霧の前に坐ると、私はひどく気味が悪くなって来た。
 「おい、煮え湯が霧にならないで、かたまったまま飛び出してくるようなことはないかい。気味が悪いなあ」
 「そりや、無いとはいえんよ。そうなったら盲目になりゃいいさ」
 「おいおい、ほんとか」
 笑っているので、私は安心して霧の中に貌をつっ込んだ。
 「はははは。鼻にばかり霧は吹きつけてるじゃないか、そうそう、もうちょっ
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