いで、いや泣きも喚きもした後に声も涙も涸《か》れ果てて放心にも似た虚《うつ》ろな心になってじっと耐え、黙々と眼を温めている。温めても、結局見えなくなってしまうことを知りながらも、しかし空しい努力を続けずにはいられない。もう暗くなりかかった眼を、もう一度あの明るい光の中に開きたい、もう一度あの光を見たい、彼女らは、全身をもってそう叫んでいるようであった。これを徒労と笑う奴は笑え、もしこれが徒労であるなら、過去幾千年の人類の努力はすべて徒労ではなかったか! 私は貴いと思うのだ。
充血はなかなかとれなかった。気の短い私も、ことが眼のことになるとそう短気を起こしていられなかったので、毎日根気良く罨法を続けた。初めに馬鹿にした友人たちも、あまり充血の散るのが遅いので、心配して見舞いに来るようになった。眼科の治療日にはかかさず出かけて洗眼し、薬をさしてもらった。
ところが、そうしたある日、私は久しぶりで十号病室の附添夫をやっているTのところへ遊びに行き、意外なところで良くなる方法を発見した。発見といっても、私だけのことで、知っている人はすでにみなやっているのであるが、私はうれしかったのでまるで
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