、部屋の中はひどい薄暗さで、天井は黒ずみ、畳は赤茶けた色で湿気《しけ》ていた。私はまだこの病院に慣れていなかったので、部屋の中へはいるのがなんとなく恐怖されるのだった。暗い穴蔵の中へでもはいって行くような感じがしてならないのである。が慣れきった友人がどんどんはいってしまったので、私も後についてはいった。私たちは若い附添婦にお茶をすすめられて呑んだ。
 そのうち、附添婦の一人が――この部屋には二人いた、たいてい一部屋一人であるが――廊下から蓙《ござ》を一枚抱えて来て畳の上に拡げた。どうするのかと、好奇心を動かせながら眺めていると私が今使っているのと同じ罨法鍋がその蓙の上に六箇、片側に三つずつ二列に並べられるのであった。するともう盲目の近づいた六人の少女が向かい合って鍋を前にして坐り、じっとうつむいたまま罨法を始めた。揃《そろ》って鍋の中のガーゼをつまみ上げてはしぼり、しぼったガーゼを静かに両眼にあてて手で押えている。じょじょじょじょと硼酸水がガーゼから滴《した》たり鍋の中に落ちた。
 私はその時、人生そのものの侘しさを覚えた。真黒い運命の手に掴まれた少女が、しかし泣きも喚《わめ》きもしな
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