とすぐ脈搏が速くなりそれが頭に上って眠れない。こういう自問自答をしている時は定まってどきどきと動悸《どうき》がうつ。睡眠不足は悪影響を及ぼして、翌日になると余計充血が激しかったりするのだった。
私は一日に三回、二十分ないし三十分くらいずつの長さで眼を罨法した。医局から貰って来た硼酸水を小さな罨法鍋に移し、火をかけてぬるま湯にすると、それをガーゼに浸して眼球の上に載《の》せて置くのである。仰向《あおむ》けに寝転んで、私はじっとしている。ほのかな温《ぬく》もりが瞼の上からしみ入って来て、溜まった悪血が徐々に流れ去って行くような心地良さである。その心地良さの中にはいい様のない侘《わび》しさが潜んでいる。癩になって、こうした病院へはいり、この若さのままいっさいを、投げ捨てて生きて行かねばならない、そうした自分の運命感が、その心地良さの底深く流れているためである。
私はふとこういうことを思い出した。それは私が入院してからまだ二、三ヶ月にしかならないころだった。もう夕方近く、私は同室の者に連れられて初めて女舎へ遊びに行ったのである。それは女の不自由舎であったが、その舎はかなり古い家だったので
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