て遠くに垣根が眺められた。尾田はしばらく腰を下ろして待っていたが、なんとなくじっとしていられない思いがし、いっそ今の間に逃げ出してしまおうかと幾度も腰を上げてみたりした。そこへ医者がぶらりとやって来ると、尾田に帽子を取らせ、ちょっと顔を覗《のぞ》いて、
 「ははあん」
と一つ頷《うなず》くと、もうそれで診察はお終《しま》いだった。もちろん尾田自身でも自ら癩に相違ないとは思っていたのであるが、
 「お気の毒だったね」
 癩に違いないという意を含めてそう言われた時には、さすがにがっかりして一度に全身の力が抜けて行った。そこへ看護手とも思われる白い上衣をつけた男がやって来ると、
 「こちらへ来てください」
と言って先に立って歩き出した。男に従って尾田も歩き出したが、院外にいた時のどことなくニヒリスティクな気持が消えて行くとともに、徐々に地獄の中へでも堕《お》ち込んで行くような恐怖と不安を覚え始めた。生涯取り返しのつかないことをやっているように思われてならないのだった。
 「ずいぶん大きな病院ですね」
 尾田はだんだん黙っていられない思いがしてきだしてそう訊ねると、
 「十万坪」
 ぽきっと木
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