と、とにかく入院しようと決心した。
すべてが普通の病院と様子が異なっていた。受付で尾田が案内を請うと四十くらいの良く肥えた事務員が出て来て、
「君だな、尾田高雄は、ふうむ」
と言って尾田の貌《かお》を上から下から眺め廻すのであった。
「まあ懸命に治療するんだね」
無造作にそう言ってポケットから手帳を取り出し、警察でされるような厳密な身許調査を始めるのだった。そしてトランクの中の書籍の名前まで一つひとつ書き記されると、まだ二十三の尾田は、激しい屈辱を覚えるとともに、全然一般社会と切り離されているこの病院の内部にどんな意外なものが待ち設けているのかと不安でならなかった。それから事務所の横に建っている小さな家へ連れて行かれると、
「ここでしばらく待っていてください」
と言って引きあげてしまった。後になってこの小さな家が外来患者の診察室であると知った時尾田は喫驚《びっくり》したのであったが、そこには別段診察器具が置かれてある訳でもなく、田舎駅の待合室のように、汚れたベンチが一つ置かれてあるきりであった。窓から外を望むと松栗|檜《ひのき》欅《けやき》などが生え繁っており、それらを透し
前へ
次へ
全51ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北条 民雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング