の枝を折ったように無愛想な答え方で、男はいっそう歩調を早めて歩くのだった。尾田は取りつく島を失った想いであったが、葉と葉の間に見えがくれする垣根を見ると、
 「全治する人もあるのでしょうか」
と知らず識らずの中に哀願的にすらなって来るのを、腹立たしく思いながら、やはり訊《き》かねばおれなかった。
 「まあ一生懸命に治療してごらんなさい」
 男はそう言ってにやりと笑うだけだった。あるいは好意を示した微笑であったかもしれなかったが、尾田には無気味なものに思われた。
 二人が着いた所は、大きな病棟の裏側にある風呂場で、すでに若い看護婦が二人で尾田の来るのを待っていた。耳まで被さってしまうような大きなマスクを彼女らはかけていて、それを見ると同時に尾田は、思わず自分の病気を振り返って情けなさが突き上がって来た。
 風呂場は病棟と廊下続きで、獣を思わせる嗄《しわが》れ声やどすどすと歩く足音などが入り乱れて聞こえてきた。尾田がそこへトランクを置くと、彼女らはちらりと尾田の貌を見たが、すぐ視線を外《そ》らして、
 「消毒しますから……」
とマスクの中で言った。一人が浴槽の蓋《ふた》を取って片手を浸しな
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