からね」
 「手当てはしないのですか」
 「そうですねえ。手当てと言っても、まあ麻酔剤でも注射して一時をしのぐだけですよ。菌が神経に食い込んで炎症を起こすので、どうしようもないらしいんです。何しろ癩が今のところ不治ですからね」
 そして、
 「初めの間は薬も利きますが、ひどくなって来れば利きませんね。ナルコポンなんかやりますが、利いても二、三時間。そしてすぐ利かなくなりますので」
 「黙って痛むのを見ているのですか」
 「まあそうです。ほったらかして置けばそのうちにとまるだろう、それ以外にないのですよ。もっともモヒをやればもっと利きますが、この病院では許されていないのです」
 尾田は黙って泣き声の方へ眼をやった。泣き声というよりは、もう唸《うな》り声にそれは近かった。
 「当直をしていても、手の付けようがないのには、ほんとに困りますよ」
と佐柄木は言った。
 「失礼します」
と尾田は言って佐柄木の横へ腰をかけた。
 「ね尾田さん。どんなに痛んでも死なない、どんなに外面が崩れても死なない。癩の特徴ですね」
 佐柄木はバットを取り出して尾田に奨めながら、
 「あなたが見られた癩者の生活は、
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