獄《ぢごく》の衰微《すゐび》だといふので、此《こ》の通《とほ》り鉄橋《てつけう》になつちまいました、それ御覧《ごらう》じろ、三|途《づ》橋《ばし》と書いて有《あ》りませう。岩「成程《なるほど》、三途川《さんづのかは》は鉄橋《てつけう》が架《かゝ》るなどゝ云《い》ふのはえらいもので。民「えらいなんて、地獄《ぢごく》の開《ひら》けた事を貴方《あなた》にお目にかけたい位《くらゐ》のものです、兎《と》も角《かく》彼処《あすこ》に茶屋《ちやゝ》が有《あ》りますから入《い》らツしやい。と是《これ》から案内《あんない》に連《つ》れて行《ゆ》き、橋《はし》を渡《わた》ると葭簀張《よしずばり》の腰掛《こしか》け茶屋《ぢやゝ》で、奥《おく》が住居《すまゐ》になつて居《を》り、戸棚《とだな》が三《みつ》つばかり有《あ》り、棚《たな》が幾《いく》つも有《あ》りまして、葡萄酒《ぶだうしゆ》、ラムネ、麦酒《ビール》などの壜《びん》が幾本《いくほん》も並んで居《ゐ》て、中々《なか/\》届《とゞ》いたもので、土間《どま》を広《ひろ》く取つて、卓子《テーブル》に白いテーブル掛《かけ》が懸《かゝ》つて、椅子《いす》が有《あ》りまして、烟草盆《たばこぼん》が出て居《を》り、花瓶《くわびん》に花を挿《さ》し中々《なか/\》気取《きど》つたもので、菓子台《くわしだい》にはゆで玉子《たまご》に何《なに》か菓子が有《あ》ります、好《よ》い菓子では有《あ》りませんけれども、萬事《ばんじ》届《とゞ》いて居《を》ります。岩「こりやア驚《おどろ》いた、婆《ばあ》さん茶を一|杯《ぱい》おくれ。婆「お掛《か》けなさいまし、宜《よ》く入《い》らツしやいました、さ此方《こちら》へ、汽車《きしや》の出るにはちつと間《あひ》が有《あ》りますよ、今《いま》極楽《ごくらく》が出ました後《あと》でございます、これから地獄行《ぢごくゆき》が出ます。岩「妙《めう》だね、へえゝ、感心だね。ちやんと麦酒《ビール》の看板《かんばん》だね、西洋酒《せいやうしゆ》のビラが下《さが》つて居《ゐ》る所が不思議《ふしぎ》だね、此《こ》の婆《ばア》さんは何《なん》ですか。民「これは脱衣婆《だつえばア》さんなんで。岩「ア、アー、三途川《さんづのかは》の婆《ばア》さんかえ。婆「はい旧《もと》は彼等《あすこ》で六|道《だう》銭《せん》を取つて、どうやら斯《か》うや
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