ら暮《くら》して居《を》りましたが、今度《こんど》此処《こゝ》へ停車場《ステンシヨン》が出来《でき》るに就《つい》て、茶屋《ちやゝ》を出したら宜《よ》からうといふ人の勧《すゝ》めに任《まか》せて、茶屋《ちやゝ》を始めましたが、此方《このはう》が結句《けつく》気楽《きらく》です。岩「怖《こは》らしくない婆《ばア》さんだね、新宿《しんじゆく》の婆《ばア》さんとは大違《おほちが》ひだ。婆「何処《どこ》も彼《か》も貴方《あなた》実《じつ》に立派《りつぱ》に成《な》りましたよ。岩「向うの微《かす》かに遠い処《ところ》に赤い煉瓦《れんぐわ》がある、あれは何《なん》だえ。婆「陸軍省《りくぐんせう》でございます。岩「へえゝ、陸軍省《りくぐんせう》が出来《でき》ましたかね。婆「明治《めいぢ》十年に西郷隆盛様《さいがうたかもりさま》や桐野様《きりのさま》や篠原様《しのはらさま》が入《い》らツしやいまして、陸軍省《りくぐんせう》をお建《た》てになりました、それから身丈格好《せいかつかう》の揃《そろ》つた亡者《まうじや》を選んで、毎日々々|調練《てうれん》でございます。岩「へえゝ、調練《てうれん》……これは面白《おもしろ》いな、向うの高い山の上に白いものが見える、あれは何《なん》だえ。婆「あれでございますか、文部省《もんぶせう》が建《た》ちましたの、空気《くうき》の好《い》い処《ところ》でなければならんと仰《おつ》しやいまして、森大臣《もりだいじん》さまが入《い》らツしやいまして。岩「へえゝ、驚《おどろ》いたね、大層《たいそう》揃《そろ》つて出来《でき》ましたね、地獄《ぢごく》のお閻魔《えんま》さまは何《ど》うして居《ゐ》ますね。婆「只今《たゞいま》はお気楽《きらく》でございますよ、皆《みな》さん方《がた》に任《まか》せツきりで、憲法発布《けんぱふはつぷ》が有《あ》りまして、それからは皆《みな》えらい方《かた》が引受《ひきう》けて何《な》んでもなさるのです。岩「へえゝ、何《ど》う云《い》ふ姿で、矢《や》ツ張《ぱ》り舌《した》や何《なに》か出して居《ゐ》ますか。婆「重《おも》たい冠《かんむり》は脱《と》つてしまひ、軽い帽子《ばうし》を冠《かぶ》つて、又《また》儀式《ぎしき》の時にはお冠《かむ》りなさいます、それに到頭《たうとう》散髪《ざんぱつ》になツちまひました。岩「然《さ》うですかえ、十|
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