でなすツたかえ。女「はい私《わたくし》も疾《と》うから参《まゐ》つて居《を》ります、おやまア、岩田屋《いはたや》の旦那《だんな》だよ、貴方《あなた》は腎虚《じんきよ》なんでせう。男「馬鹿《ばか》をいへ、さうしてお前《めえ》は誰《だれ》だツけ。女「柳橋《やなぎばし》のお重《ぢう》でございますよ。岩「なる程《ほど》芸妓《げいしや》のお重《ぢう》さんだ、お前《めえ》は虎列剌《これら》で死んだのだ、これはどうも……此方《こつち》へ来《き》てから虎列剌《これら》の方《はう》は薩張《さつぱり》よいかね、併《しか》し並んで歩くのは厭《いや》だ、僕《ぼく》は地獄《ぢごく》へ行《い》くのは困るね、極楽《ごくらく》へ行《い》きたいが、何方《どつち》へ行《い》つたら宜《よ》からう。重「何方《どつち》へ行《い》つても最《も》う造作《ざうさ》ア有《あ》りません、直《ぢ》きですよ。岩「それでも極楽《ごくらく》は十|萬《まん》億土《おくど》だと云《い》ふぢやアないか。重「其処《そこ》に停車場《ステンシヨン》が有《あ》りますから、汽車《きしや》に乗れば、すうツと直《ぢ》きに行《い》かれますよ。岩「もう地獄《ぢごく》へも汽車《きしや》が出来《でき》たかえ、驚《おどろ》いたね。甲「へえゝどうも旦那《だんな》、誠に暫《しばら》く……。岩「いやア、アハヽヽこれは吉原《よしはら》の幇間《たいこもち》の民仲《みんちう》だね。民「へえ、どうも思《おも》ひ掛《がけ》ない処《ところ》で旦那《だんな》にお目にかゝつたぢやアないか。乙「へえ旦那《だんな》、誠に暫《しばら》く、どうも宜《よ》くお出《い》でなすツた。岩「なに宜《よ》くも来《こ》ない……こゝに川が有《あ》るね。民「これが有名《いうめい》な三|途川《づのかは》と云《い》ふので。岩「三|途川《づのかは》にしちやア橋が有《あ》るね。民「旧《もと》は渡《わたし》で対岸《むかう》に大きな柳の樹《き》が有《あ》つて、其処《そこ》に脱衣婆《ばあさん》が居《ゐ》て、亡者《まうじや》の衣服《きもの》をふん奪《ばい》て、六|道銭《だうせん》を取つて居《ゐ》ましたが、渡《わた》しはいけないといふ議論《ぎろん》がありました、それは水害《すゐがい》のためにもし船《ふね》が転覆《ひつくりか》へると蘇生《よみがへ》る亡者《やつ》が多いので、それでは折角《せつかく》開《ひら》けようといふ地
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