お前さんの居る所が知れないと云って、お父《とっ》さんや皆《みんな》が何様《どんな》に心配をしていたか知れないよ」
 と茶を長二の前に置いて、
 政「温《ぬる》いからおあがり、お夜食は未だゞろうね、大澤《おおさわ》さんから戴いた鰤《ぶり》が味噌漬にしてあるから、それで一膳おたべよ」
 長「えゝ有がとうがすが、今喰ったばかしですから」
 と湯呑の茶を戴いて、一口グッと飲みまして、
 長「親方……私《わっち》は遠方へ行く積りです」
 清「其様《そん》なことをいうが、何所《どけ》へ行くのだ」
 長「京都へ行って利齋の弟子になる積りで、家《うち》をしまったのです」
 清「それも宜《い》いが、己も先《せん》の利齋の弟子で、毎《いつ》も話す通り三年釘を削らせられた辛抱を仕通したお蔭で、是までになったのだから、今の利齋ぐれえにゃア指《さ》す積りだが……むゝあの鹿島《かしま》さんの御注文で、島桐《しまぎり》の火鉢と桑の棚を拵《こせ》えたがの、棚の工合《ぐえい》は自分でも好《よ》く出来たようだから見てくれ」
 と目で恒太郎に指図を致します。恒太郎は心得て、小僧の留吉と二人で仕事場から桑の書棚を持出して、長
前へ 次へ
全165ページ中93ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング