て居りますと、
 長「兼公、手前《てめえ》は然《そ》ういうけれどな、拵《こせ》えた当人が拙《まず》いと思う物で銭を取るのは不親切というものだ、何家業でも不親切な了簡があった日にア、※[#「木へん+兌」、第3水準1−85−72]《うだつ》のあがる事アねえ」
 兼「それだって此のくれえの事ア素人にア分りゃアしねえ」
 長「素人に分らねえから不親切だというのだ、素人には分らねえから宜《い》いと云って拙いのを隠して売付けるのは素人の目を盗むのだから盗人《ぬすっと》も同様だ、手前《てめえ》盗人をしても銭が欲しいのか、己《おら》ア此様《こん》な職人だが卑しい事ア大嫌《でえきら》いだ」
 と丹誠を凝《こら》して造りあげた書棚をさい槌でばら/\に打毀《うちこわ》しました様子ゆえ、助七は驚きましたが、益々《ます/\》並の職人でないと感服をいたし、やがて表の障子を明けまして、
 助「御免なさい、私《わたくし》は坂倉屋助七と申す者で、少々親方にお願い申したい事があって、先刻出しました召使の者が、早呑込みで粗相を申し、相済みません、其のお詫かた/″\まいりました」
 と丁寧に申し述べましたから、流石《さすが》
前へ 次へ
全165ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング