《いきなり》其の口上を云って、お辞儀も挨拶もしなかったろう」
 三「へい」
 助「それを失礼だと思ったのだろう」
 三「だって旦那寝転んでいる方が余《よっ》ぽど失礼でしょう」
 助「ムヽそれも左様《そう》だが、何《なん》か気に障った事があるんだろう」
 三「左様じゃアございません、全体馬鹿なんです」
 助「むやみに他《ひと》の事を馬鹿なんぞというものではございませんぞ」
 と丁稚を誡《いまし》めて奥に這入りましたが是まで身柄のある画工でも書家でも、呼びにやると直に来たから、高の知れた指物職人と侮《あなど》って丁稚を遣《や》ったのは悪かった、他《ほか》の職人とは異《かわ》っているとは聞いていたが、それ程まで見識のある者とは思わなんだ、今の世に珍らしい男である、御先祖様のお位牌を入れる仏壇を指させるには此の上もない職人だと見込みましたから、直に衣服を着替えて、三吉に詫言を云含めながら長二の宅へ参りました。長二は此の時出来上った書棚に気に入らぬ所があると申して、才槌《さいづち》で叩き毀《こわ》そうとするを、兼松が勿体ないと云って留めている混雑中でありますから、助七は門口に暫く控えて立聞きをし
前へ 次へ
全165ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング