上等のお得意様が出来たと喜んで、何事を措《お》いても直《すぐ》に飛んでまいるに、長二は三吉の口上を聞いて喜ぶどころか、不機嫌な顔色《かおつき》で断りましたから、三吉は驚いて帰ってまいりました。助七は三吉の帰りを待ちかねて店前《みせさき》に出て居りまして、
 助「三吉|何故《なぜ》長二を連れて来ない、留守だったか」
 三「いゝえ居りましたが、彼奴《あいつ》は馬鹿でございます」
 助「何《なん》と云った」
 三「坂倉屋だか何だか知らないが、物を頼むに人を呼付けるという事アない、己《おら》ア呼付けられてへい/\と出て行くような閑《ひま》な職人じゃアねえと申しました」
 助「フム、それじゃア何か急ぎの仕事でもしていたのだな」
 三「ところが左様《そう》じゃございません、鉋屑《かんなくず》の中へ寝転んで煙草を呑んでいました、火の用心の悪い男ですねえ」
 助「はてな……手前何と云って行った」
 三「私《わたくし》ですか、私は仰しゃった通り、蔵前の坂倉屋だが、拵えてもらう物があるから直に来ておくんなさい、蔵前には幾軒も坂倉屋があるから一緒にまいりましょうと云ったんでございます」
 助「手前入ると突然
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