つざかじま》の広袖《ひろそで》に厚綿《あつわた》の入った八丈木綿の半纒を着て、目鏡《めがね》をかけ、行灯《あんどん》の前で其の頃|鍜冶《かじ》の名人と呼ばれました神田の地蔵橋の國廣《くにひろ》の打った鑿《のみ》と、浅草田圃の吉廣《よしひろ》、深川の田安前《たやすまえ》の政鍜冶《まさかじ》の打った二挺の鉋《かんな》の研上《とぎあ》げたのを検《み》て居ります。年のせいで少し耳は遠くなりましたが、気性の勝った威勢のいゝ爺さんでございます。兼松は長二の出奔《しゅっぽん》を甚《ひど》く案じて、気が急《せ》きますから、奥の障子を明けて突然《いきなり》に、
 兼「親方大変です、何うしたもんでしょう」
 清「えゝ、何だ、仰山な、静かにしろえ」
 兼「だッて親方|私《わっち》の居ねい留守に脱出《ぬけだ》しちまッたんです」
 清「それ見ろ、彼様《あんな》にいうのに打様《うちよう》を覚えねえからだ、中の釘は真直《まっすぐ》に打っても、上の釘一本をあり[#「あり」に傍点]に打ちせえすりゃア留《とめ》の離れる気遣《きづけ》えは無《ね》いというのだ……杉の堅木《かたぎ》か」
 兼「まア堅気《かたぎ》だ、道楽をしね
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