包んで柳島へ帰る途中、左右を見返り、小声で、
 幸「此方《こっち》の事を知らせずとも、余所ながら彼《あれ》を取立てゝやる思案もあるから、決して気《け》ぶりにも出すまいぞと、あれ程云って置いたに、余計なことを云うばかりか、己にも云わずに彼様《あん》な金を遣ったから覚《さと》られたのだ、困るじゃアねえか」
 柳「だッてお前さん、現在我子と知れたのに打棄《うっちゃ》って置くことは出来ませんから、名告らないまでも彼を棄てた罪滅《つみほろぼ》しに、彼《あ》のくらいの事はしてやらなければ今日様《こんにちさま》へ済みません」
 幸「エヽまだ其様《そん》なことを云ってるか、過去《すぎさ》った昔の事は仕方がねえ」
 柳「まだお前さんは彼を先《せん》の旦那の子だと思って邪慳になさるのでございますね」
 幸「馬鹿を云え、そう思うくらいなら彼様《あんな》に目をかけてやりはしない」
 柳「だッて先刻《さっき》なんぞア酷《ひど》く突倒したじゃアありませんか」
 幸「それでも今彼に本当のことを知られちゃア、それから種々《いろん》な面倒が起るかも知れないから、何処までも他人で居て、子のようにしようと思うからの事だ……
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