のですが、其の時の傷ア……失礼だが御覧なせい、こん通りポカンと穴になってます」
 と片肌を脱いで見せると、幸兵衞夫婦は左右から長二の背中を覘《のぞ》いて、互に顔を見合せると、お柳は忽《たちま》ち真蒼《まっさお》になって、苦しそうに両手を帯の間へ挿入《さしい》れ、鳩尾《むなさき》を強く圧《お》す様子でありましたが、圧《おさ》えきれぬか、アーといいながら其の場へ倒れたまゝ、悶え苦《くるし》みますので、長二はお柳が先刻《さっき》からの様子と云い、今の有様を見て、さては此の女が己を生んだ実の母に相違あるまいと思いました。

        十六

 其の時の男というは此の幸兵衛か、但《たゞ》しは幸兵衛は正しい旦那で、奸夫《かんぷ》は他の者であったか、其の辺の疑いもありますから、篤《とく》と探索した上で仕様があると思いかえして、何気なく肌を入れまして、
 長「こりゃとんだ詰らないお話をいたしまして、まことに失礼を……急ぎの仕事もございますからお暇《いとま》にいたします」
 幸「まア宜《い》いじゃアないか、種々《いろ/\》聞きたい事もあるから、今夜泊ってはどうだえ」
 長「へい、有難うございますが
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