エ」
 長「へい、私《わたくし》の実の親ほど」
 と云いかけて実親《じつおや》の無慈悲を思うも臓腑《はらわた》が沸《にえ》かえるほど忌々《いま/\》しく恨めしいので、唇が痙攣《ひきつ》り、烟管《きせる》を持った手がぶる/″\顫《ふる》えますから、お柳は心配気に長二の顔を見詰めました。
 柳「本当の親御達が何うしたのだえ」
 長「へい私《わたくし》の実の親達ほど酷《むご》い奴は凡《およ》そ世界にございますめえ」
 とさも口惜《くやし》そうに申しますと、お柳は胸の辺《あたり》でひどく動悸《どうき》でもいたすような慄《ふる》え声で、
 柳「何故だえ」
 長「何故どころの事《こっ》ちゃアございません、私《わたくし》の生れた年ですから二十九年|前《めえ》の事です、私を温泉のある相州の湯河原の山ん中へ打棄《うっちゃ》ったんです、只打棄るのア世間に幾許《いくら》もございやすが、猫の死んだんでも打棄るように藪ん中へおッ投込《ぽりこ》んだんと見えて、竹の切株が私《わっち》の背中へずぶり突通《つッとお》ったんです、それを長左衛門という村の者が拾い上げて、温泉で療治をしてくれたんで、漸々《よう/\》助かった
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