なく親父が死んだものですから、母親《おふくろ》が貧乏の中で私を育ったので、三度の飯さえ碌に喰わない程でしたから、子供心に早く母親の手助けを仕ようと思って、十歳《とお》の時清兵衛親方の弟子になったのですが、母親も私が十七の時死んでしまったのです」
 と涙ぐんで話しますから、幸兵衛夫婦も其の孝心の厚いのに感じた様子で、
 柳「お前さんのような心がけの良い方が、何うしてまア其様《そんな》に不仕合《ふしあわせ》だろう、お母さんをもう少し生かして置きたかったねえ」
 長「へい、もう五年生きていてくれると、育ってくれた恩返《おんげえ》しも出来たんですが、まゝにならないもんです」
 と鼻をすゝって握拳《にぎりこぶし》で涙を拭きます心を察してか、お柳も涙ぐみまして、
 柳「お察し申します、お前さんのように親思いではお父さんやお母さんに早く別れて、孝行の出来なかったのはさぞ残念でございましょう」
 長「へい左様《そう》です、世間で生《うみ》の親より養い親の恩は重いと云いますから、猶残念です」
 柳「へえー、そんならお前さんの親御は本当の親御さんではないの」
 と問われたので、長二はとんだ事を云ったと気が
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