な結構な物ア喰った事アございませんから」
幸「だッて親方のような伎倆《うでまえ》で、親方のように稼いでは随分儲かるだろうから、旨い物には飽きて居なさろう」
長「どう致しまして、儲かるわけにはいきません、皆《みん》な手間のかゝる仕事ですから、高い手間を戴きましても、一日《いちんち》に割ってみると何程にもなりやしませんから、なか/\旨い物なんぞ喰う事ア出来ません」
幸「左様《そう》じゃアあるまい、人の噂に親方は貧乏人に施しをするのが好きだという事だから、それで銭が持てないのだろう、何ういう心願かア知らないが、若いにしちア感心だ」
長「人は何《なん》てえか知りませんが、施しといやア大業《おおぎょう》です、私《わたくし》ア少《ちい》さい時分貧乏でしたから、貧乏人を見ると昔を思い出して、気の毒になるので、持合せの銭をやった事がございますから、そんな事を云うんでしょう」
柳「長さん、お前|少《ちい》さい時貧乏だッたとお云いだが、お父《とっ》さんやお母《っか》さんは何商売だったね」
長「元は田舎の百姓で私《わたくし》の少さい時|江戸《こっち》へ出て来て、荒物屋を始めると火事で焼けて、間も
前へ
次へ
全165ページ中64ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング