これは親方|生憎《あいにく》な事で、とんだ御厄介になりました、又其の内に出ましょう」
 とそこ/\に帰ってまいります。

        十三

 お柳の装《なり》は南部の藍の子持縞《こもちじま》の袷に黒の唐繻子《とうじゅす》の帯に、極微塵《ごくみじん》の小紋縮緬《こもんちりめん》の三紋《みつもん》の羽織を着て、水の滴《たれ》るような鼈甲《べっこう》の櫛《くし》笄《こうがい》をさして居ります。年は四十の上を余程越して、末枯《すが》れては見えますが、色ある花は匂《におい》失せずで、何処やらに水気があって、若い時は何様《どん》な美人であったかと思う程でございますが、来ると突然《いきなり》病気で一言《ひとこと》も物を云わずに帰って行く後影《うしろかげ》を兼松が見送りまして、
 兼「兄い……ちっと婆さんだが好《い》い女だなア」
 長「そうだ、装《なり》も立派だのう」
 兼「だが、旨味の無《ね》え顔だ、笑いもしねいでの」
 長「塩梅《あんべえ》がわるかったのだから仕方がねえ」
 兼「左様《そう》だろうけれども、一体が桐の糸柾《いとまさ》という顔立だ、綺麗ばかりで面白味が無《ね》え、旦那の方は立派
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