島へ泊るつもりで、近所を通る序《ついで》に、妻《これ》が親方に近付になりたいと云うから、お邪魔に寄ったのだ」
長「そりゃア好《よ》く……まア此方《こっち》へお上んなさい」
と六畳ばかりの奥の室《ま》の長火鉢の側へ寝蓆《ねござ》を敷いて夫婦を坐らせ、番茶を注《つ》いで出す長二の顔をお柳が見ておりましたが、何ういたしたのか俄に顔が蒼くなって、眼が逆《さか》づり、肩で息をする変な様子でありますから、長二も挨拶をせずに見ておりますと、まるで気違のように台所の方から座敷の隅々をきょろ/\見廻して、幸兵衛が何を云っても、只はいとかいゝえとか小声に答えるばかりで、其の内に又何か思い出しでもしたのか、襟の中へ顔を入れて深く物を案じるような塩梅で、紙入を出して薬を服《の》みますから、兼松が茶碗に水を注いで出すと、一口飲んで、
柳「はい、もう宜しゅうございます」
長「何《ど》っか御気分でも悪いのですか」
幸「なに、人込へ出ると毎《いつ》でも血の道が発《おこ》って困るのさ」
兼「矢張《やっぱり》逆上《のぼ》せるので、もっと水を上げましょうか」
幸「もう治りました、早く帰って休んだ方が宜しい……
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