》で忙《せわ》しないから、屹度|上《あが》るというお約束は出来ません」
 幸「そういう事なら近日|私《わし》がお宅へ出ましょう」
 長「どうか左様《そう》願います」
 と長二は斯様な人と応対をするのが嫌いでございますから、話の途切れたのを機《しお》に暇乞《いとまごい》をして帰りました。

        十二

 後《あと》で幸兵衛は和尚に、
 幸「伎倆《うで》の良《い》い職人というものは、お世辞も軽薄もないものだと聞いていましたが、成程彼の長二も其の質《たち》で、なか/\面白い人物のようです」
 和「職人じゃによって礼儀には疎《うと》いが、心がけの善《え》い人で、第一|陰徳《いんとく》を施す事が好きで、此の頃は又仏のことに骨を折っているじゃて、余程妙な奇特《きどく》な人じゃによって、どうか贔屓にしてやってください」
 幸「左様《さよう》ですか、職人には珍らしい変り者でございますが、それには何か訳のある事でしょう」
 和「はい、お察しの通り訳のあることで、全体あの男は棄児でな、今に其の時の疵が背中に穴になって残って居《お》るげな」
 幸「へえー、それは何うした疵で、どういう訳でございま
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