いませんから、切《せ》めては懇《ねんごろ》に供養でもして恩を返そうと思いまして、両親の墓のある谷中|三崎《さんさき》の天竜院《てんりゅういん》へまいり、和尚に特別の回向を頼み、供養のために丹誠をこらして経机《きょうづくえ》磐台《きんだい》など造って、本堂に納め、両親の命日には、雨風を厭《いと》わず必ず墓まいりをいたしました。
十一
斯様な次第でございますから、何となく気分が勝《すぐ》れませんので、諸方から種々《いろ/\》注文がありましても身にしみて仕事を致さず、其の年も暮れて文政四|巳年《みどし》と相成り、正月二月と過ぎて三月の十七日は母親《おふくろ》の十三年忌に当りますから、天竜院に於《おい》て立派に法事を営み、親方の養子夫婦は勿論兄弟弟子一同を天竜院へ招待《しょうだい》して斎《とき》を饗《ふるま》い、万事|滞《とゞこお》りなく相済みまして、呼ばれて来た人々は残らず帰りましたから、長二は跡に残って和尚に厚く礼を述べて帰ろうといたすを、和尚が引留めて、自分の室《へや》に通して茶などを侑《すゝ》めながら、長二が仏事に心を用いるは至極|奇特《きどく》な事ではあるが、昨
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