さんが下へ降りて行った後《あと》で、長二は己を棄てた夫婦というは何者であるか、又夫婦喧嘩の様子では、外に旦那という者があるとすれば、此の男と馴合《なれあい》で旦那を取って居たものか、但《たゞ》しは旦那というが本当の亭主で、此の男が奸夫《かんぷ》かも知れず、何《なん》にいたせ尋常の者でない上に、無慈悲千万な奴だと思いますれば、真《まこと》の親でも少しも有難くございません、それに引換え、養い親は命の親でもあるに、死ぬまで拾《ひろい》ッ子ということを知らさず、生《うみ》の子よりも可愛がって養育された大恩の、万分一も返す事の出来なかったのは今さら残念な事だと、既往《こしかた》を懐《おも》いめぐらして欝《ふさ》ぎはじめましたから、兼松が側《はた》から種々《いろ/\》と言い慰めて気を散じさせ、翌日共に泉村の寺を尋ねました。寺は曹洞宗《そうどうしゅう》で、清谷山《せいこくざん》福泉寺と申して境内は手広でございますが、土地の風習で何《いず》れの寺にも境内には墓所《はかしょ》を置きませんで、近所の山へ葬りまして、回向《えこう》の時は坊さんが其の山へ出張《でば》る事ですから、長二も福泉寺の和尚に面会して多
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