ア魂消やした」
兼「ムヽそれじゃア兄いは此の湯河原の温泉のお蔭で助かったのだな」
長「左様《そう》だ、温泉の効能も効能だがお母や親父の手当が届いたからの事だ、他人の親でせえ其様《そん》なに丹誠してくれるのに、現在《げんぜえ》血を分けた親でいながら、背中へ竹の突通るほど赤坊《あかんぼ》を藪の中《なけ》え投《ほう》り込んで棄《すて》るとア鬼のような心だ」
と長二は両眼に涙を浮《うか》めまして、
長「婆さん、そうしてお前《めえ》その児を棄てた夫婦の形《なり》や顔を覚えてるだろう、何様《どん》な夫婦だったえ」
婆「ハア覚《おべ》えていやすとも、苛《むご》い人だと思ったから忘れねいのさ、男の方は廿五六でもあったかね。商人《あきゅうど》でも職人でも無《ね》い好《い》い男で、女の方は十九か廿歳《はたち》ぐらいで色の白い、髪の毛の真黒《まっくろ》な、眼《まなこ》が細くって口元の可愛《かえい》らしい美《い》い女で、縞縮緬《しまちりめん》の小袖に私《わし》イ見たことの無《ね》い黒《くれ》え革の羽織を着ていたから、何という物だと聞いたら、八幡黒《やわたぐろ》の半纒革だと云ったっけ」
兼「フム、少
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