い、他《ひと》に聞えると困るから、小さな声でお願いだよ」
婆「何を困るか知んねいが、湯河原じゃア知らねい者は無《ね》いだけんどね、私《わし》イ一番よく知ってるというのア、その孩児《ねゝっこ》……今じゃア此様《こん》なに大《でか》くなってるが、生れたばかりのお前《めえ》さんを苛《むご》くしたのを、私イ眼の前に見たのだから」
長「そんならお前《めえ》、己の実《ほんと》の親達も知ってるのか、何処の何《なん》という人だえ」
婆「何処の人か知んねえが、私《わし》が此家《こっち》へ奉公に来た翌年《あくるとし》の事《こん》だから、私がハア三十一の時だ、左様すると……二十七八年|前《めえ》のこんだ、何でも二月の初《はじめ》だった、孩児を連れた夫婦の客人が来て、離家《はなれ》に泊って、三日ばかりいたのサ、私イ孩児の世話アして草臥《くたび》れたから、次の間に打倒《うちたお》れて寝てしまって、夜半《よなか》に眼イ覚《さま》すと、夫婦喧嘩がはだかって居るのサ、女の方で云うには、好《い》い塩梅《あんべい》に云いくるめて、旦那に押《おっ》かぶして置いたが、此の児《こ》はお前《めい》さんの胤《たね》に違《ちげ
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