いうのかえ」
婆「そうさ、此の先の山を些《ちっ》と登ると、小滝の落ちてる処があるだ、其処《そこ》の蘆《あし》ッ株の中へ棄てられていたのだ、背中の疵が証拠だアシ」
兼「これは妙だ、何処《どこ》に知ってる者があるか分らねえものだなア」
長「こりゃア思いがけねえ事だ……そんなら婆さんお前《めえ》己の親父やお母を知ってるかね」
婆「知ってるどころじゃアねい」
長「そうして己の棄てられたわけも」
婆「ハア根こそげ知ってるだア」
長「左様《そう》かえ……そんなら少し待ってくんな」
と長二は此の先婆さんが如何様《いかよう》のことを云出すやも分らず、次第によっては実《まこと》の両親の身の上、又は自分の恥になることを襖越しの相客などに聞かれては不都合と思いましたから、廊下へ出て様子を窺《うかゞ》いますと、隣座敷の客達は皆《みん》な遊びに出て留守ですから、安心をして自分の座敷に立戻り、何程かの金子を紙に包んで、
長「婆さん、こりゃア少ねえがお前《めえ》に上げるから煙草でも買いなさい」
婆「これはマアでかくお貰い申してお気の毒なこんだ」
長「其の代り今の話を委《くわ》しく聞かしてくださ
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