と蕎麦を少し摘《つま》んで喰ってみて、
 兼「そんなに馬鹿にしたものじゃアねえ、中々|旨《うめ》え……兄い喰ってみねえ……おゝ婆さん、お燗《かん》が出来たか」
 婆「大きに手間取りやした、お酌をしますかえ」
 兼「一杯《いっぺい》頼もうか……婆さんなか/\お酌が上手だね」
 婆「上手にもなるだア、若《わけ》い時から此家《こっち》でお客の相手えしたからよ」
 兼「だってお前今日初めて見かけたのだぜ」
 婆「左様《そう》だがね、私《わし》イ三十の時から此家《こっち》へ奉公して、六年|前《ぜん》に近所へ世帯《しょたい》を持ったのだが、忙《せわ》しねえ時ア斯うして毎度《めいど》手伝に来るのさ、一昨日《おとつい》おせゆッ娘《こ》が塩梅《あんべい》がわりいって城堀《しろほり》へ帰《けえ》ったから、当分|手伝《てつで》えに来たのさ」
 兼「ムヽ左様《そう》かえ、そうして婆さんお前《めえ》年は幾歳《いくつ》だえ」
 婆「もうはア五十八になりやす」
 兼「兄い、田舎の人は達者だねえ」
 長「どうしても体に骨を折って欲がねえから、苦労が寡《すくね》いせいだ」
 婆「お前《めえ》さん方は江戸かえ」
 
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