のし》みがねえ……蕎麦粉の良《い》いのがあるから打ってもらおうか」
 長「己《おら》ア喰いたくねえが、少し相伴《つきあ》おうよ」
 兼「そりゃア有難い」
 と兼松が女中を呼んで蕎麦の注文を致します。馴れたもので程なく打あげて、見なれない婆さんが二階へ持ってまいりました。

        七

 兼「こりゃア早い、いや大きに御苦労……兄い一杯《いっぺい》やるか」
 長「己《おら》ア飲まないが、手前《てめえ》一本やんない」
 兼「そんなら婆さん、酒を一合つけて来てくんねえ」
 婆「はい、下物《さかな》はどうだね」
 兼「何があるえ」
 婆「鯛《たえ》と鶏卵《たまご》の汁《つゆ》があるがね」
 兼「それじゃア鯛《たい》の塩焼に鶏卵の汁を二人前《ふたりまえ》くんねえ」
 婆「はい、直《すぐ》に持って来やす」
 と婆さんは下へ降りてまいりました。
 長「兼公《かねこう》見なれねえ婆さんだなア」
 兼「宅《うち》の婆さんよりア穢《きた》ねえようだ、あの婆さんの打った蕎麦だと醤汁《したじ》はいらねいぜ」
 長「なぜ」
 兼「だって水洟《みずッぱな》で塩気がたっぷりだから」
 長「穢ねいことをいうぜ
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