ましたから、直に筆を執《と》って前の始末を文章に認《したゝ》めて下さいました。其の文章は四角な文字ばかりで私《わたくし》どもには読めませんが、是も亦《また》名文で、今日《こんにち》になっては其の書物《かきもの》ばかりでも大層な価値《ねうち》があると申す事でございます。斯様に林大學頭様の折紙が付いている宝物《ほうもつ》で、私も一度拝見しましたが御維新後坂倉屋が零落《おちぶ》れまして、本所|横網《よこあみ》辺へ引込《ひっこ》みました時隣家より出た火事に仏壇も折紙も一緒に焼いてしまったそうで、如何にも残念な事でございます。それは後《のち》の話で此の仏壇の事が江戸市中の評判となり、大學頭様も感心なされて、諸大名や御旗下《おはたもと》衆へ吹聴をなされましたから、長二の名が一時に広まって、指物師の名人と云えば、あゝ不器用長二かというように名高くなりまして、諸方から夥《おびたゞ》しく注文がまいりますが、手伝の兼松は足の疵《きず》で悩み、自分も此の頃の寒気のため背中の旧疵《ふるきず》が疼《いた》み、当分仕事が出来ないと云って諸方の注文を断り、親方清兵衛に後《あと》を頼んで、文政三|辰年《たつどし》の十
前へ
次へ
全165ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング