いようだねえ」
 茂「手前《てめえ》が余計なことを喋りそうにするから、己《おら》ア冷々《ひや/\》したぜ」
 由「行く前に大屋さんから教わって置いたから、襤褸《ぼろ》を出さずに済んだのだ、斯ういう時は兀頭《はげ》も頼りになるねえ」
 茂「それだから鰻で一杯飲ましてやったのだ」
 由「鰻なぞを喰ったことが無いと見えて、串までしゃぶって居たよ」
 茂「まさか」
 由「本当だよ、お酒も彼様《あん》な好《い》いのを飲んだ事アないと見えて、大層酔ったようだった」
 茂「己《おれ》も先刻《さっき》は甚《ひど》く酔ったが、風が寒いので悉皆《すっかり》醒《さ》めてしまった」
 由「早く帰って、又一杯おやりよ」
 と茂二作夫婦は世話になった礼心《れいごゝろ》で、奉行所から帰宅の途中、ある鰻屋へ立寄り、大屋|徳平《とくへい》に夕飯《ゆうめし》をふるまい、徳平に別れて下谷稲荷町の宅へ戻りましたのは夕|七時半《なゝつはん》過で、空はどんより曇って北風が寒く、今にも降出しそうな気色《けしき》でございますので、此の間から此の家の軒下を借りて、夜店を出します古道具屋と古本屋が、大きな葛籠《つゞら》を其処へ卸して、二
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