す」
 奉「ムヽ、柳が懐妊《かいにん》と分った月を存じて居《お》るか」
 と奉行は暫らく眼《まなこ》を閉じて思案をいたされまして、
 奉「由其の方はなか/\物覚えが宜いな、然らば幸兵衛が龜甲屋方へ初めてまいったのは何年の何月頃じゃか、それを覚えて居らんか」
 由「はい、左様《さよう》」
 と暫らく考えて居りましたが、突然《いきなり》に大きな声で、
 由「思い出しました」
 と奉行の顔を見上げて、
 由「幸兵衛が初めてまいりましたのは、其の年の五月|絹張《きぬばり》の行灯《あんどん》が一対出来るので」
 と茂二作の顔を見て、
 由「それ、お前さんが桃山を呼びに行ったら、其の時幸兵衛さんが来たんだよ、御新造が美《い》い男だと云って、それ、あの」
 と喋るのを茂二作が目くばせで止《とゞ》めても、お由は少しも気がつかずに、
 由「別段に御祝儀をお遣んなさったのを、お前さんがソレ」
 と余計なことを喋り出そうといたしますから、茂二作が気を揉んで睨《にら》めたので、お由も気が付いたと見えて、
 由「へい、マア左様《そう》いうことで、それから私共《わたくしども》まで心安くなったので、其の初めは五月の
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