ぐ》った時、故《わざ》ッと行灯の陰《かげ》になって、暗《くれ》い所で内の方から打《たゝ》きやアがったのは、無理に己を怒らせて縁切の書付を取ろうと企《たく》んだのに相違ねえが、縁を切って何うするのか、十一月を十月と書いたのにも仔細《しさい》のある事だろう、二三日経ったら何《なん》か様子が知れようから打棄っておきねえ」
 と一同をなだめて案じながら寝床に入りました。其の頃南の町奉行は筒井和泉守《つゝいいずみのかみ》様で、お慈悲深くて御裁きが公平という評判で、名奉行でございました。丁度今月はお月番ですから、お慈悲のお裁きにあずかろうと公事訴訟が沢山に出ます。今日《こんにち》は十一月の十一日で、追々白洲へ呼込みになる時刻に相成りましたから、公事の引合に呼出された者は五人十人と一群《ひとむれ》になって、御承知の通り数寄屋橋|内《うち》の奉行所の腰掛茶屋に集っていますを、やがて奉行屋敷の鉄網《かなあみ》の張ってある窓から同心が大きな声をして、
 「芝《しば》新門前町《しんもんぜんちょう》高井利兵衛《たかいりへえ》貸金催促一件一同入りましょう」
 などゝ呼込みますと、その訴訟の本人相手方、只今では原
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