と傍《そば》にある懸硯箱《かけすゞりばこ》を引寄せて鼻紙に何か書いて差出しましたから、清兵衞が取上げて見ますと、仮名交りで、
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一|私《わたくし》是まで親方のおせわになったが今日《こんにち》あいそがつきたから縁を切ります然《しか》る上は親方でないあかの他人で何事も知らないから左様《さよう》おぼしめし被下候《くだされそろ》
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文政|巳《み》十月十日[#地から9字上げ]長二郎
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箱清《はこせい》様
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とありますから清兵衛は変に思って眺めておりますを、恒太郎が横の方から覗き込んで、
恒「馬鹿な野郎だ、弟子のくせに此様な書付を出すとア……おや、長二は何うかしているんだ、今月ア霜月だのに十月と書いてあるア、月まで間違《まちげ》えていやアがる」
長「そりゃア知ってるが、先月から愛想が尽きたから、そう書いたんだ」
恒「負惜《まけおし》みを云やアがるな、此様な書付を張ったからにゃア二度と再び家《うち》の敷居を跨《また》ぎやアがると肯《き》かねいぞ」
長「そりゃア知れた事《こっ》た、
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