ことを云《い》つたつて為《し》やうがない、さアこゝは奥山《おくやま》だ。梅「へえ……。ときよろ/\してゐる中に、近江屋《あふみや》の旦那《だんな》を見失《みはぐ》つてしまひました。梅「金兵衛《きんべゑ》さアん……近江屋《あふみや》さアん……。と大きな声《こゑ》を出して山中《やまぢう》呶鳴《どな》り歩きます中《うち》に、田圃《たんぼ》の出口《でぐち》の掛茶屋《かけぢやや》に腰を掛《か》けて居《ゐ》ました女《をんな》は芳町辺《よしちやうへん》の芸妓《げいしや》と見えて、お参《まゐ》りに来《き》たのだから余《あま》り好《よ》い装《なり》では有《あ》りません、南部《なんぶ》の藍《あゐ》の萬筋《まんすぢ》の小袖《こそで》に、黒縮緬《くろちりめん》の羽織《はおり》、唐繻子《たうじゆす》の帯《おび》を〆《し》め、小さい絹張《きぬばり》の蝙蝠傘《かうもりがさ》を傍《そば》に置き、後丸《あとまる》ののめり[#「のめり」に傍点]に本天《ほんてん》の鼻緒《はなを》のすがつた駒下駄《こまげた》を履《は》いた小粋《こいき》な婦人《ふじん》が、女「ちよいと梅喜《ばいき》さん、ちよいと。梅「へえへえ何処《どこ》ウ…
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