勘次の申立《もうしたて》と符合致して居りますから遉《さすが》の名奉行にも少し分り兼《かね》ました。
 甲「全く其の侍に貰ったに相違有るまいが、是は芝|赤羽根《あかばね》の勝手ヶ原の中根兵藏《なかねひょうぞう》という家持《いえもち》町人の所へ忍入り家尻《やじり》を切って盗取《ぬすみと》った八百両の内の古金で、皆此の通り三星の刻印の有る古金で有るに依《よっ》て、其方《そち》が唯貰ったでは言訳が立たぬ、全く親の為めに其方は其の日に困るに依て一時凌《いちじしの》ぎに使い、翌日|町役人《ちょうやくにん》とも相談の上訴え出ようと思う折柄、勘次に盗取られたに相違有るまいな」
 と云うお慈悲のお言葉。
 筆「へえ恐入りました、夫《それ》に相違ございません」
 甲「うむ、吟味中|入牢《じゅろう》申し付ける」
 とピッタリ入牢と相成りました。さア何《ど》うも近所では大騒ぎ、寄ると集《さわ》ると此のお筆の評判ばかりでございます、或る人は頻《しき》りに不承知を唱えまして何しろお上《かみ》はお慈悲だってえが大違いだ、彼様《あん》な親孝行な娘を引張ってって牢へ入れちまって、金を呉れた奴が盗人《ぬすびと》だか、武家
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