武家「はい…はい、それはお気の毒な事じゃ、むー…」
 小田原提灯をこう持上げて見ますると、下を向いて袖を顔に押当て、ポロ/\泣いて居ります。眤《じっ》とその様子を見て居りましたが、軈《やが》て一掴みの金子を小菊に包んで、
 武「これを遣わすから、早う帰って親御に孝行を致せ、したが女子《おなご》の身の夜中《やちゅう》と云い、いかなる災難に遇わんとも限らんから向後《きょうこう》袖乞は止《や》めに致すがよい」
 とお筆に渡すと其の儘往って仕舞いました。お筆は嬉し涙にくれて見送って居りましたが家《うち》へ帰って包を明けて見ますと古金《こきん》で四五十両、お筆は恟《びっく》りして四辺《あたり》を見廻し、
 筆「はア…何《ど》うしたんだろう、心の迷いじゃアないか知ら、先刻《さっき》彼所《あすこ》を通り掛ったのは武士《さむらい》と思ったのが狐か何かで私を化《ばか》したのじゃアないか知らん、私がお鳥目を欲しいと思う其の気を知ってつままれたのか知らん」
 と足をギイーッと抓《つね》ったが痛いから、
 筆「夢じゃアないが、ハテ何うしたんだろう、向後袖乞に出るなと仰しゃったから、御親切な殿様で私の戸外《おも
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