したから、
筆「アヽお武家で有るか、万一《ひょっと》したら少しはお恵みが有ろう」
と思いツカ/\/\と来《きた》り、もう怖いも恥かしいも打忘れ武家の袂《たもと》に縋《すが》り、
筆「お願いでございます」
武家「ア…はアヽ……誰《たれ》も居らんかと思ったので大きに恟《びっく》り致したが、何《なん》だえ、女子《おなご》かえ」
筆「はい…お父《とっ》さんが長々煩いまして其の日に追われ、何も彼《か》も売尽しましてもう明日《あした》は親どもにお米を買って喰べさせる事が出来ません、それ故誠にお恥かしい事でございますが、毎日|此処《これ》へ参りましては人様のお袖へ縋って聊《いさゝ》かの御合力《ごごうりょく》を受けまして親子の者が露命《いのち》を繋《つな》いで居る者でございます、けれ共今晩|斯様《かよう》に風が吹きますので薩張《さっぱり》人通りがございませんから、是迄立って居ましたが少しのお恵みも受けませず、今晩此の儘帰りましては親を見殺しに致す様なものと存じまして誠に御無理ではございますが百文でも二百文でもお恵み下さいますれば親子の者が助かります、何卒《どうぞ》殿様お願いでございます」
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