板の間を働いたという濡衣を着て、親父に面目ないと思う処から入水致しました処を、助けられたは仕合せで有ったが、その又己れを助けて呉れた米倉屋孫右衞門が零落を致して、京橋鍛冶町の裏家住い搗《かて》て加えて長《なが》の病気というので、今は最《も》う何も彼《か》も売尽した処から袖乞いに出る様な始末、
 筆「今日も夜更けて人も通らず、したが今夜百文でも二百文でも貰って帰らなければ私の命を助けて呉れた大事なお父様《とっさん》に明日《あした》喰べさせるものを宛《あて》がう事も出来ず、と云ってお腹《なか》を空《すか》させては済まない、私は喰べなくても宜《い》いから何卒《どうぞ》お父様丈にはお粥でも炊いて上げなければ成らないから、もう詮方《しかた》がない、いやらしい事を云う人でも有ったら誠に道ならん事では有るが寧《いっ》そ此の身を任しても親の為めには替えられない」
 と、覚悟を致し、ヒューという寒風《かぜ》を凌《しの》いで柳番屋の蔭に立って居ると、向うから前《ぜん》申し上げた黒縮緬の頭巾を被り大小を落差しに致して黒無地の羽織、紺足袋という扮装《こしら》えで通りました、白張《しらはり》の小田原提灯が見えま
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