て親父にたべさせる事も出来なくなりました。

        六[#「六」は底本では「五」と誤記]

 お筆は何うしたら宜かろうと種々《いろ/\》考えましたが、斯《こ》うなっては迚《とて》も致し方がないから、能く人が切羽に詰った時には往来の人の袖に縋《すが》る事も有ると聞いた事もあるから、袖乞《そでごい》に出る気に成りましたが、あゝ恥かしい事では有るが親の為には厭《いと》う処でないが袖乞をする事がお父さんに知れたら猶御心配をかけるようなものだと種々に考えまして親父の寝付いた時分に窃《そっ》と抜け出して数寄屋河岸《すきやがし》の柳番屋の脇の処に立って居りました。寒くなると人の往来《ゆきゝ》は少のうなります、酒臭き人の往逢《ゆきあ》う寒さかなという句がありますが、たま/\通る人を見ても恵《めぐみ》を受けようと思う様な人はさっぱり通りません。お筆は手拭を冠《かぶ》って顔を隠し焼け穴だらけの前掛に結びっ玉だらけの細帯を締めて肌着が無いから慄《ふる》えて柳の蔭に立って居ると、丁度|此処《こゝ》へ小田原提灯を点けて二人連れで通り掛った者がありますから、
 筆「もし貴方」
 と言掛けましたが是は中々
前へ 次へ
全134ページ中78ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング