切れる畳が切れる、其のぼろを隠すのは苦《くるし》いもので有ります。お筆はお米を買う事が出来ないから、自分が喰べずに米櫃《こめびつ》を払ってお粥にして父に喰べさせても、己《おのれ》はお腹《なか》が空いた顔を父に見せません、近処でも是を知って可哀想に思って居りますが直《じ》き其の裏に五斗俵市《ごとびょういち》と云う人がございます。茶舟《ちゃぶね》の船頭で五斗俵《ごとびょう》を担《かつ》ぐと云う程の力の人でございます、其処《そこ》の姐御《あねご》は至極情け深い人で、然《そ》う云う強い人の女房でございますから鬼の女房《にょうぼ》に鬼神《きじん》の譬《たとえ》、ものゝ道理の分った婦人で有りますから、お筆を可愛がって居ります。
 女房「おい、勘次《かんじ》や、お前あの奥のお筆さんの処へ序《ついで》に水を汲んでやんなよ、病人があるから定めし不自由だろう、何かお菜《かず》を拵《こしら》えてやろうと思うが、手一つで親の看病をしながら内職をして居るので、何もする事が出来ないとよ、可哀想だから目をかけて遣《や》んなよ」
 勘「えゝ姐さん目をかける処《どころ》じゃアない、何時《いつ》でも井戸端へ行くたア、水を
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