家「お前まア、何《ど》ういう訳でそんな軽率《かるはずみ》な事をしたのだえ、無分別の事ではないかえ、私に言い悪《にく》ければ家内にでも云って呉れゝば此様《こん》な事にはならないものを、親父さんは一人の娘が入水を致したからは此の世に何一つ楽《たのし》みはないと置手紙をして世帯道具も其の儘置去りにして行方知れず、だが又帰る事もありましょうから親御の帰るまで私の家《うち》へお帰り、面目ない事は少しもありませんよ、何時迄も此方《こちら》にお世話になって居ては済まん事で、さア、私《わし》と一緒に帰んなさい」
 筆「はい」
 孫「あゝ申し、就きまして貴方に折入ってお願《ねがい》がございますが、此のお筆さんは今は親の無い身の上で何処《どこ》へ参ると云う見当《あて》もない事で、親御の御得心の無い者を私の娘に貰い度《た》いとも申されませんが、お前|様《さん》が御承知下されば何《ど》うも此の娘《こ》を私の娘《むすめ》にし度いと思いますが、是が深い縁があって助けたのだと家内も申して居りますので、私は他に子供がないから、何卒《どうか》此の娘《こ》を貰って養子を仕様と云う積りで、親の承知の無い者をお貰い申す
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