送り届けなければならないと心配して居ますが、只《たっ》た一人の娘を失《なく》したから何《なん》ならお前さんを家《うち》の娘に貰いたい位で、何しろ話して下さいな」
とだん/\親切に夫婦が尋ねますからお筆は、胸に迫り、繻絆《じゅばん》の袖で涙を拭きながら、
筆「はい、はい、誠に御心配を掛けて済みません、それでは申上げますが私《わたくし》は築地小田原町に居りまする下河原清左衞門と申す浪人ものゝ娘でございます」
孫「なに下河原、フム御浪人だね、築地小田原町で……お母《っか》さんもお達者かえ」
筆「いえ、私《わたくし》が四つの時に亡なりまして、親父の丹精で是までに成長致しました」
孫「おゝそれでは尚更案じて居ましょう、早くお知らせ申さなければいけない、これよ時藏や」
時「へえ」
孫「えー築地小田原町で何《なん》とか云ったのう、うむ下河原清左衞門と云うお方だ、其の娘でな……お名前は何とお云いだね」
筆「ふでと申します」
孫「まアおふでさんかえ……お前一つ下河原さんへ行って、実はお娘子《むすめご》のおふでさんが永代橋から身を投げた処を助けた処が、何《ど》うしても名前を云わないでお届
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