だから…何う云う事か家へ帰って緩《ゆる》りと事柄を聞きましょう…あれさ然《そ》んな事を云っても姉さん打捨《うっちゃ》って置く訳にはいかぬ」
筆「それでもどうぞお見逃しなすって」
主「そんな事を云わずに姉さんまア心を落着けなさい」
筆「はい、是には種々《いろ/\》訳があって死なねばなりませんので」
主「夫《それ》は種々訳もあろうけれど兎に角、そんな事を云っても誰でもそんなら死ぬが宜いと手を放して見す/\飛込ませる訳にはいかん」
妻「まア一旦私の家《うち》へお出でなさい、気を沈めて此のお薬を服《の》んで」
と夫婦の介抱で漸く気は落着きましたが、
筆「何うも生きて居《お》られません深い訳の有ります事|故《ゆえ》何卒《どうぞ》助けると思召《おぼしめ》して殺さして下さいまし」
主「助けると思って殺させる者はない、其の訳は緩《ゆっく》り聞こうから兎も角|私《わし》と一緒にお出でなさい」
と漸くに船を急がせ石切《いしきり》河岸へ船を附けて、浅草福井町の米倉屋孫右衞門《よねくらやまごえもん》と申して奉公人の二三人も使って居ります可なりの身代の人でございますが、自分の家《うち》へ連れて
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