を幸《さいわい》欄干に手を掛けて、
 ふで「南無阿弥陀仏/\」
 と唱えながら覚悟を極めましてぽかり飛込みました。するとすーッと浮くもので、飛込むと丁度足が下へ着くとずっと浮く、夫《それ》から又沈んでまた浮く、其の中《うち》にがぶ/\水を飲んで苦しむので断末間《だんまつま》の苦《くるし》みをして死ぬのだと云う事で、沈着《おちつ》いた人は水へ落ちても死なぬと申します、彼《あれ》は慌《あわ》てると身体が竪《たて》[#「竪」は底本では「堅」]になるので沈みますので身体が横になると浮上るものです、心の静《しずか》な人は川へ落ちても、あー落ちたなと少しも騒がないで腕を組んで下迄すーっと沈むと又ずっと浮いて来る、処で水をかけば助かるというのですが、然《そ》う旨くは行《ゆ》かん者で、お筆は二度目にずッと浮上った処へ、永代の橋杭《はしぐい》の処へずッと港板《みよし》が出て何《なん》だか知りませんがそれと云って船頭が島田髷を取って引上げました。
 船頭「まだ宜《よ》うござえやす息があります」
 客「まだ事は切れない、もう少し此方《こちら》へ入れてくんな、濡《ぬれ》てゝも宜《よ》い、大方|然《そ》うだろう
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