廻り道をして両国へ掛って深川|霊岸《れいがん》の寺中《じちゅう》永久寺《えいきゅうじ》へ参り、母の墓所へ香華《こうげ》を手向《たむ》けて涙ながら、
 筆「もしお母様《っかさん》、誠に私《わたくし》は不孝者でございます、お母《っか》さんには早くお別れ申して何一つ御恩も送らず小さい時から御養育をうけました大恩のある一人のお父《とっ》さんを捨《すて》て、先立つ不孝は済まぬ事ではございますが、どうもお父さんの前へ面目なくってお顔が合わせられませんから、お父さんに先立って今晩|入水《じゅすい》致し相果てます、草葉の蔭にお在《いで》なさるお母様にお目に掛りまして不孝のお詫を致しますから、どうぞお免《ゆる》し下さい」
 と生《いき》たる母にもの云う如く袖を絞って泣き伏して居ますのがやゝ暫くの間で、其の中《うち》に最《も》う日が暮れかゝりましたから霊岸を出て、深川の木場を廻り夜《よ》の更《ふけ》るを待《まっ》て永代橋《えいたいばし》へ掛りました。其の時空は少し雪模様になってひゅう/\と風が吹き往来《ゆきゝ》も止った様子、当今なれば巡査がポカアリ/\廻られて居るから飛込む事は出来ませんが、人通りのないの
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