ちたいばかりで遊女になり、其の侍を取押えて上《かみ》に厄介を掛けても亭主の仇《あだ》を討ちたいという精神から致して漸く尋ね当てた事である、迚《とて》も逃《のが》れる道はない、さア何方《いずかた》に於《おい》て毒薬調合致したか、それを申せ」
 清「はい、どうも思い掛けない事で、毒薬調合などというは容易ならん事で、医者としては、仮令《たとい》君父《くんぷ》の命たりとも毒薬調合はせぬのが掟《おきて》、夫故《それゆえ》医者に相成る時は、其の師匠へ証文を差出《さしいだ》すと然《さ》る医に承りて承知致して居ります、何故《なにゆえ》に拙者が毒を盛りましょう、毛頭覚えない事、拙者に能く似た者が有って必ず人間違いでござろう、毛頭覚えはございません」
 豐「亭主の敵を討ちたいという心掛の女が、毒を盛った者と他《た》の者と取り違えようか、如何に陳ずるとも迚も免《のが》れん処、其の方天命は心得て居《お》るだろうな」
 清「存じて居ります、存じては居りますが、決して覚えはございません」
 豊「上《かみ》を欺くな」
 清「いえ欺きません、殺して置いて殺さんと云えば上を欺き、殺しませんものを殺したというも上を欺く事
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